2014/10/17 第8回 鉛筆転がしとダービースタリオン
Text by市丸博司(パソコン競馬ライター)

小学校低学年の頃から、六角柱の鉛筆を一部削って「ヒット」「2塁打」「ホームラン」「アウト」などと書き、転がして架空の野球ゲームをやっていた。
そのうちに鉛筆1本では足りなくなり、「ストライク」「ボール」「打つ」などのボールカウント用が増えた。

小学校高学年になると、投手用鉛筆と打者用鉛筆を作り、組合せによって結果がどうなるかのゲームに進化した。
実際の試合に近くなるようにシミュレーションし、鉛筆野球ゲームはどんどんソフィスティケーテッドされていった。

しかし、どんなにゲームとしての完成度が高くなっても、鉛筆ではどうしても入れられない要素があった。
個々の選手の能力値である。
これを入れないと、どんな選手も同じ確率でホームランを打ててしまう。
どうすべきか。小学校時代最大の悩みだった。

そんな子どもが上京して大学生となり、競馬と出会った。
はまった。
しかし、中央競馬は土日しかやってくれない。
そこで、サイコロを3つとか4つ転がす競馬ゲームを考案し、平日はそれに明け暮れた。
このときも、どんどん完成度は高くなっていったが、サイコロではどうしても越えられない壁があった。
競走馬の能力値の反映である。
これを入れないと、勝つ馬は常にランダムとなってしまう。

やがて大学6年生=24歳のとき、ファミコン(1983年発売)を手に入れた。
ゲーセンでしかできないと思っていたゲームが、自宅のテレビでやれる。
最初に本体とソフトを買いさえすれば、やるたびにお金が減ることもない。
これは強烈だった。
『ゼビウス』や『ドラゴンクエスト』をはじめ、さまざまなゲームをやりまくった。
そのうち大学を卒業し、社会人となっていた。

最初の衝撃。それは29歳のとき訪れた。
1988年、ファミコンで『ベストプレープロ野球』が発売されたのである。
「これだ! これを待ってたんだよ」。
僕は涙を流さんばかりに喜び、ぐいぐいハマった。
能力値が自分で設定できる。
能力値をベースにシミュレーションする野球ゲーム。
それは僕の想定していた到達点だった。
ファミコンでいくつか野球ゲームをやってはすぐに飽きて放り出していたのに、『ベスプレ』はまったく飽きない、まさに理想のゲームだった。
作者・薗部博之。この名前は僕の憧れの対象となった。

2度目の衝撃が訪れるのは、その2年後のことである。
一度も会ったことないけど憧れの存在である薗部博之さんが、なんと競馬を題材としたシミュレーションゲームを作るという噂を耳にしたのである。
何という幸運。その競馬ゲーム、面白くないはずがない。
そして、自分が学生時代に感じていた壁を軽々と越えていくことも想像に難くない。

それからは、夢のような時期だった。
『ベスト競馬 ダービースタリオン』は、自分が想像していた「競馬ゲーム」を完全に凌駕した完成度の高いゲームだった。
ハマったのは当然だが、それだけではない。
1991年の発売からほどなくして、後に成澤大輔さんやホーク爺も参加するパソコン通信「ニフティサーブ」を通じて、薗部さんと直接会う機会に恵まれた。
そして、「ダビスタオフライン」と称して、薗部さんも含め多くの仲間と一緒に『ダビスタ』をプレーする楽しい会を開くことができたのである。
それはそれは幸せな時間だった。

その後は、ご存じの通りである。
マニアックすぎて売れないという前評判を簡単に覆し、『ダビスタ』は超人気競馬ゲームとして売れまくった。
そして、多くの若者を競馬に引きずり込んだ。
ライターとして数多くの競馬関係者を取材させてもらったが、現在の20代後半~40代半ばの関係者は、ほぼ例外なく『ダビスタ』の洗礼を受けていたし、そのほとんどは競馬に興味を持ったきっかけが『ダビスタ』だった。
いまだに、なぜ『ダビスタ』が馬事文化賞をもらってないのか不思議で仕方がない。

筆者の環境も変わった。プレーするだけでは飽き足らず、ライターとして成澤さんのダビスタ全書に少し書かせてもらったりもした。
『ベストプレープロ野球』の攻略本を作らせてもらったのも、かけがえのない思い出である。

さて、そんな『ダビスタ』が、今度はニンテンドー3DSにやってくる。
幸せな時間がまた味わえる。ありがたいことこの上ない。

市丸博司(いちまるひろし)
1959年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学教育学部卒業後、出版社を経てフリーライターとなり、1990年頃から「パソコン競馬ライター」を名乗ってパソコンと競馬を結びつけるライターとして活動。1998年頃から「電脳予想家」として競馬予想もこなす。(株)レイヤード代表取締役。「競馬予想TV!」(フジテレビONE)、「先週の結果分析」(グリーンチャンネル)にレギュラー出演中。夕刊フジに予想コラムを掲載するほか、競馬場・ウインズでのイベントなどでも活躍している。
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